CapiCar：中小企業のための軽量WES

1. 市場課題

中小企業のEC運営には、以下の構造的な課題が存在した。

• Shopify管理画面の複雑性：倉庫スタッフにとっては機能過剰であり、操作学習に時間とコストを要する。さらにアクセス権限の分離ができず、誰でも操作可能な構造的脆弱性が存在する。
• 既存WESシステムの過剰性： 導入コストが高く、スモールスケールの事業者には過剰な仕様。

上記の分析から、Shopifyを情報ソースとした軽量な運用レイヤーが必要であると判断した。

2. ユーザーインサイト

初期段階ではWebアプリを試作したが、現場観察により重大な制約が確認された。

倉庫環境はネットワークとハードウェアに不安定性があり、それにブラウザベースのバーコード読み取りに遅延と誤認識が多い。

この状況から導かれる要件は、信頼性と処理性能の優先である。

3. 戦略的転換：Native iOSへの移行

上記の洞察を踏まえ、Webアプリの方針を撤回し、ネイティブiOSアプリとして再設計を実施した。単なる技術選定の変更ではなく、ユーザー環境に根差したプロダクト戦略の転換である。

• 通信問題への対応：Offline-First構成を採用。SwiftDataを用いたローカル完結処理により、通信環境に依存しない安定運用を実現。
• 性能問題への対応：Apple Vision Frameworkを利用し、バーコード認識を高速化。

4. プロダクト設計方針

CapiCarの設計方針は、「The Cockpit, Not the Engine Room」であり、すなわち、倉庫スタッフが管理画面に触れることなく、作業に専念できる操作環境の提供である。

• ガイド型UI：商品画像とSKUを中心に構成し、記憶や検索に頼らず確認動作で完結する設計。誤操作率と教育コストの低減を実現。
• 進捗の可視化：出荷工程をリアルタイムに表示するダッシュボードを導入。チーム全体で状況を共有可能とした。

5. 成果と検証

ネイティブアプリとしてのPoC（概念実証）開発を完了。主要な技術要件を満たし、業務運用に耐える性能を確認した。

バックエンドには Make.com、Airtable、Renderを組み合わせ、コスト試算を実施。Renderの基本プラン程度の月額コストで継続運用が可能であることを確認。紙ベース業務からの移行コストは最小限であり、導入後即時の効果が見込まれる段階に到達。

6. 考察

CapiCarプロジェクトは、プロダクト開発の全工程を一貫して管理する力の実証であった。市場課題の発見、ユーザー環境の分析、技術的制約の理解、戦略転換、成果検証。各段階が一貫して「現場の現実」に基づいていた点に意義がある。

信頼性と性能の確保、導入コストの最小化、運用継続性の確立。三者の均衡こそ、実用的プロダクトの条件である。